by小野進一
【株式会社ベストインクラスプロデューサーズ】《Part2》戦略領域まで思考を巡らせることが市場価値を高める秘訣
デジタル領域における市場のニーズとキャリアの築き方を考える企画の第1弾。
今回のゲストは、「マーケティングプロデュース業」という独自のビジネスを立ち上げた、株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(以下BICP)の代表取締役社長・菅 恭一(すが・きょういち)氏です。
Part1に続き、このPart2では若手デジタルマーケターのキャリア形成に必要な経験やスキルについて語っていただきました。
>>Part1 「デジタルマーケティング」の支援ではなく、「デジタル時代のマーケティング」の支援を。
目次
事業会社への転職という選択肢は本当に正しいのか
野崎 マーケティングに携わっている若手の方たち、特にパートナーサイドにいるベンダーやエージェンシーサイドにいる人のほとんどが、我々のところに相談に来て、「事業会社に行きたい」と声を揃えて言います。
ただ、事業会社へ転職すれば彼らが思い描いている仕事を実際にできるのか、そして、デジタルの経験のみを積んできた人が果たして事業会社でマーケターとして勤まるのだろうかということは、もう少し考えた方がいいのではないかと感じます。
事業会社のマーケターに立場が近い菅さんはどのようにお考えでしょうか?
菅氏 難しいところですが、2パターンあると思っています。それは、キャリアパスがある場合とない場合です。
特にトラディショナルな企業にデジタルのみのキャリアを持って転職した場合、スキルを正しく理解してもらえる環境が十分に作りきれずに、どうしても組織の中でエイリアンになってしまうことが多いように思います。
結果的にキャリアが見えなくなってしまうという危険性はありますね。
一方、デジタル系の事業を軸にしている企業や、デジタルを軸に新規事業を開発していこうと取り組んでいる企業であれば、デジタルのキャリアを持って転職した人がその組織のマーケティングの中心にいけることはあると思うんです。
実際にそういったケースも出てきていると思います。
野崎 その企業の違いを詳しく教えてください。
菅氏 ベンチャーか、それとも伝統のある会社かの違いは大きいのかもしれません。加えるなら、どのマーケットで勝負しているのかということもあるでしょう。
グローバルや、異業種からの参入も視野に入れている企業と、ある程度コモディティ化が進んだ市場の中にいる企業とでは、大きく違うような気がしますね。 野崎 御社はいわゆるナショクラと言われるような企業のパートナーとしてマーケティング支援をされていますね。
たとえば、ナショクラへの転職を希望するローキャリデジタルマーケター(経験が少ない若手のマーケター)も多いのですが、こうした企業に転職すると、いわゆるマーケティングの本筋を掴みづらいような構図になっていることもあるのでしょうか。
菅氏 それはパートナーとして感じますね。中にはうまくいっていないマーケターの方もいらっしゃいます。
私たちから見ると、デジタルに抵抗のない若手の方が企業のマーケティングのど真ん中にいるといいなとは思いますが、そのような状態にするにはまだ壁がある気がします。
それは企業の問題なのか、個人の力の問題なのか……。
野崎 企業なのか個人のスキルなのか。原因としてはどちらが大きいんでしょうか? 私はどちらかというと企業側、つまり組織の問題が大きいのかなと感じています。
そもそも組織自体がマーケティングのど真ん中になりきれていなくて、たとえばせっかく覚えたマーケティングの知識を生かしきれずにジョブローテーションで別の部署に行ってしまうとか、「デジタルはデジタル」「マスはマス」と組織的に分かれてしまっている場合もあります。
しかも、そこを統括している上司がまた何も分かっていない人だったりすることも、あるのではないかと思えて仕方がありません。
菅氏 それは大きいかもしれませんね。
野崎 その結果、マーケターとして転職したはずなのに、広告運用やメディアのディレクション担当として落ち着いてしまう……というミスマッチなアサインが散見されます。
デジタルを使って新しいことをするのではなく「価値の源泉」にデジタルを適用する
菅氏 私は、デジタルは広告やオウンドメディア、DMP、AIなど注目されるトレンドは様々ですが、それらを使うことがデジタル時代のマーケティングだとは思っていません。
そもそも、それぞれの企業には強みや特徴があるわけで、その「源泉」にデジタルが入っていくことが、デジタル時代のマーケティングだと思うんです。
野崎 同感です。大事なポイントですよね。
菅氏 ですから、既存のビジネスと違うところでデジタルを使って何かをやることではないということを、もう少しちゃんと考えるべきではないでしょうか。
たとえば訪問販売のような人を介してものを売る事業であれば、訪問販売を行う現場がデジタルによってどうより良い体験をお客様に届けることができるか、そして事業貢献できるか、そういうことなんじゃないかという意味です。
野崎 例えばパフォーマンスメディアの運用スキルとは全然違う話ですよね。
菅氏 事業のど真ん中にデジタルのリテラシーを持って入った時に、お客様のインサイトがわかるとか、販売店とお客様のコミュニケーションが良くなるとか、それによってオンラインセールスだけでなく、既存のチャネルビジネスが改善されるか、サービスの改良につながるとか、そういうことではないかと思いますね。
野崎 その「価値の源泉」にデジタルスキルホルダーが入り切れていない、ということですね。
菅氏 そして、うまくデジタルのスキルを生かすこともできていないというギャップが、今起こっていること、つまりデジタルマーケティングが小さくまとまってしまうことの本質ではないかと感じています。
野崎 だからこそ、外から入ってその橋渡しをするのが、BICP社が取り組むマーケティングプロデュースであるということですね。つくづく、ものすごくニーズのある仕事だなと感じます。
菅氏 ありがとうございます。
常に戦略レイヤーまで考える。それが求められるマーケターへの近道
野崎 若手マーケターと接していると、「テクノロジーありき」で考えることが多いように感じます。
ただ、こうして菅さんと話していると、テクノロジーというものはフレームワークに乗っかるもの、つまり調味料のようなものではないかとあらためて気付かされますよね。
今後も、新しいテクノロジーはどんどん入ってくるでしょうし、メディアも増えていくと思います。
しかし、小手先のものにとらわれず、一度立ち戻って「マーケティングとは」ということを理解しておくことの必要性を痛感しています。
菅氏 ありがとうございます。おそらく、我々を取り巻くサービスそのものがデジタルによって変わっていくこともあるでしょうし、マーケティングそのものも変わっていくと思います。
だからこそ余計に、デジタルの入り口に立っている人は、可能性があるので、その入り口がどこに向かっていくのかについて考えておいた方がいいと思います。
野崎 これはマーケターとして、という意味ですよね?
菅氏 はい、そうです。組織に属していれば、どうしても部分装置になりがちです。
その是非は別として、マーケターとしてキャリアを築いていきたいのであれば、例えばいくつかの部門を経験してみることは大事ですね。
管理画面と向き合う仕事から飛び出して、その先にある事業の核を経験するために事業会社に行ったり、総合的なマーケティングに触れるために総合広告代理店に行くのもいいでしょう。
それも、できるだけキャリアの癖がつかない若いうちにです。
デジタルのリテラシーを持っていること自体は価値だと思いますし、そういうスキルを持ちながら幅を広げることは意識的に行っていくべきです。
野崎 年齢も年収もスキルも重ねていきながら、一方で突然「これで良いのだろうか?」と焦りを感じる瞬間が誰しもあります。
そんな時に、目の前のタスクにどういう意識で向き合っておけば、マーケットバリューを高めていけると思いますか? 菅氏 ちゃんと考えること。そして、想像することではないでしょうか。
担当している商品はどの市場セグメントの、どのターゲットの、どのポジショニングを狙っているものなのか、そしてそこにはどういうお客様がいて、どういう生活をしていて、その人たちにはどういうインサイトがあって……といった、実際の担当実務に落ちてくる手前にあるマーケティング・コミュニケーション戦略の領域にまで思考を巡らせることです。
自分がクライアントに提供しているマーケティング支援業務というのは、言い換えればお客様とブランドの価値交換の一部であるということ。
その中でどういう役割を担っているのかを、きちんと想像することです。できれば、その先のあり方としては、実務のスキルを磨き、いわゆる戦略フェーズにまで進んでいけるのがベストなんですよね。
野崎 それはなぜでしょうか?
菅氏 私の考えでは、実弾を知っている人だからこそ実弾に着地できる戦略が作れると思っています。コンサルティングにありがちな空論との差はそこ。
実際にエグゼキューションできる人が戦略レイヤーに上がっていくと、とても強いんですよ。
野崎 もちろん簡単なことではないですが、戦略フェーズという「マーケティングのど真ん中」は、多くのマーケターにとって魅力的な舞台でしょうね。
菅氏 一方で、そこがマーケティング支援業界の中ですぽっと抜けている感じがしていますね。
デジタルマーケティング業界の経営者の知り合いがたくさんいますが、やっぱり戦略側には出て行かないことが多いんです。
専門領域側で組織を作り、そこでのマネタイズに終止してしまうと、結果的にブランドとの距離は知らず知らずのうちに離れてしまいます。
そして、今後はそうしたことがどんどん広がっていくんじゃないかなと感じています。
野崎 となると、BICP社の力がもっと必要な世の中になりますね(笑)。
菅氏 ある意味、我々は業界の隙間産業みたいなものだと認識していますよ。
野崎 逆に言えば、BICP社のようなポジションが必要なくなれば、業界としては健全化しているというふうにもとれます。非常に悩ましいというか……。
菅氏 私たち自身もそう思っていますよ。とにかく、若い人たちにはどんどん戦略レイヤーにチャレンジしていってほしいなとは思いますね。それが第一歩ではないでしょうか。
野崎 そういう人が一人でも増えてくれたら、業界のさらなる発展につながるかなという気がしてきました。
といったところで、今日はありがとうございました! 最後までお付き合い頂いた方のキャリア形成のヒントになれば幸いです。
撮影/田底和彦 構成/プロの転職編集部
>Part1 「デジタルマーケティング」の支援ではなく、「デジタル時代のマーケティング」の支援を。
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