by小野進一
広告運用スキルの市場価値と、転職した次のキャリアの選択肢とは?
リスティング広告やDSPをはじめとする「デジタル運用型広告(顧客獲得を目的とした広告媒体、以下「運用型広告」)」は、今やプロモーションに必要不可欠な存在。
ここ数年間の目まぐるしい成長は、目を見張るものがありました。 そしてこれからも、更なる発展が期待できる分野であることは間違いありません。
しかし、この業種に携わる方々の中には、ニーズの高いスキルを持っているにもかかわらず、転職を希望される方が多くいらっしゃいます。それはなぜなのでしょうか?
運用型広告におけるスキルの価値からキャリア形成のパターン、さらには転職のパターンについて、キャリアコンサルタントの野崎大輔が解説します。
【プロフィール】
野崎大輔 キャリアコンサルタント/プロの転職運営統括
デジタル時代で10年後も勝ち続けるキャリア設計を支援する白メガネ。転職/副業/就活/イベント企画を横断したコンサルティングに従事。リクルートの人材ビジネス、博報堂DY系アイレップ等を経て現職。デジタル知見を活かしたマッチングが得意。趣味は面接同席。MarkeZine「白メガネ野崎が突撃!」連載中。
目次
運用型広告に関する経験の市場価値は高まり続けている
デジタル人材の需要はもっと大きくなる
テクノロジーが進化して、世の中が便利になってきているなかで、企業と消費者をつなぐのは大変重要な任務です。ですから関わる人々は、今後もっと評価される存在になります。
キャリアは、土地の地価に例えてみたらわかりやすいかもしれません。
渋谷駅前の土地を数億円で買ったとして、おそらく10年後もそこまで値段は変わりませんが、ゆくゆく再開発されて駅ができる田舎で空き地を買っておいて、将来、駅ができるときにその土地を売れば間違いなく高く売れますよね。
デジタル領域はこの先ずっと育っていくので、今のうちにキャリアをつくっておけばアドバンテージに繋がります。
キャリアはニーズを考えた投資
今が大変だからという理由で「リアルの広告がやりたい」とか「PRをやりたい」と相談に来られる方もたくさんいらっしゃいます。
もちろんそれもひとつのキャリアではありますが、そちらにはそちらの先陣のプロがいて、長い歴史があります。その中に未経験で飛び込んでいって戦ったときに、優位に戦えるでしょうか?
時代がデジタル化していく中で、リアルやPRの世界でも、「デジタルもやらないとだめだよね」という流れが出来ています。そこで必要となるのが、まさにデジタル人材なのです。
隣の芝生は青く見えるでしょう。でも行ってみたらそうでもなかった、ということもありますから、今やっていることに自信と誇りを持ち、市場のニーズと合わせることが将来的にキャリア形成をしやすいのではないでしょうか。
もとを正せば、しっかりとクライアントに成果を返せるからニーズが高まっているのです。目の前の仕事をただ機械的に行うことは、この仕事の本質とは言えません。
こうした観点でキャリアを考えれば、将来が明るいのではないかと思いますし、この業界で働きたいという人も増えるでしょう。
そうすると仲間も増えて、もっと健全な領域になっていきます。私としてもそういう業界支援をしていきたいと思っています。
成長の陰に潜むハードな労働環境、人員不足、短い育成期間
需要に供給が追い付いていない
運用型広告に携わる方が、ネクストキャリアを考えたときに選択するケースで多いのが発注サイドである「事業会社」です。 その理由で多いのは、残念ながら業務量の多さによる疲弊。
テクノロジーの進化により施策が増えている運用型広告では、クライアントが求めるレベルが高まる一方で、人員が慢性的に足りていない領域があります。
つまり、ひとりひとりに課せられる業務量が増え続けているのです。ではなぜ、人員が足りていないのでしょうか。
ハイスピードで発展し続ける運用型広告ですから、それに関わるスキルはまさに今、引く手あまたの状態。
数年の実績を積んだ方々は、総合広告代理店に引き抜かれたり、事業会社でのインハウスマーケターに転身したりと、活躍の場を広げるためにキャリアチェンジしていきます。
そしてそのペースは、年々早まっています。
つまりそれだけ運用型広告にまつわるスキルは求められていて、「市場の伸びとニーズ(需要)」が「人員の成長や増加(供給)」を上回ってしまっています。
ハードな環境が解消されない原因とは?
これは、イノベーションが起きているときに起こり得る変化の痛みであり、ある程度は仕方のないことですが、年々その差分は大きくなるいっぽうです。
すると、人員を増やすために高速回転で育成する必要があります。デジタル系の企業が各社、新卒、第2新卒によるポテンシャル採用に力を入れていますが、それも納得できます。
ただし、ここで問題なのがマンパワーの低下です。携わる人口が増えても経験の浅い人ばかりになるわけですから、ある程度はやむを得ません。
さらに、先にも述べたように、これまで同業界の中でプレイヤーだった人材が事業主側、つまりクライアント側に移ります。
すると、彼らは自らの経験から現場の状況も業界自体のトレンドも知っていますから、よりハイレベルな内容を要求するようになります。
さらにはテクノロジーの進化によって、運用型広告は施策が増えていますから、「運用する金額以上に、扱う施策が増え、覚えることが増えていく」状況になりがちです。
当然、労働環境はハードになり育成期間も短くなります。
不正事件から考える労働環境改善とデジタル広告の価値見直し
覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、運用型広告における不正発覚の二ュースが業界を駆け巡ったことがありました。
このニュースもまた、こうした環境が原因のひとつとなっていた可能性があります。もちろん、運用型広告は固定金額では運用できません。
たとえば、広告運用期間が10日間あった場合、予算をまんべんなく10日間で使い切るのは難しく、7日間運用してみて、相当な額の予算が余ってしまっている、などということがあり得ます。
しかしレポートの数字を見れば結果は一目瞭然。つまりクライアントにとっては、効果が計りにくい従来のマス広告よりも厳しい判断ができるのです。
一方で、運用型広告はCMや雑誌のように掲載されているものが必ずしも見られるわけではありません。つまり、クライアントはデジタル上でいつ、どこに広告が出ているのかを把握しにくいのです。
膨大な業務量で人員不足、クライアントから求められるレベルが高まり続ける中での運用型広告のこうした構造、これが不正に繋がった要因のひとつであると言えるでしょう。
ただし、クライアント側が運用型広告の運用、それに伴う検証結果をきちんと把握しておらず、デジタル広告を軽視しがちになっていることを象徴しているとも言えます。
「とりあえず広告予算が余ったから、デジタルもやっておこう」程度の感覚でおこなっている企業が一定数存在するのも事実。デジタルマーケティングをインハウス化する事業会社がもっと増え、逐一管理できる体制があれば、不正は発生しないはずです。
これはあくまで私の見解ですが、このニュースにより、運用型広告の実態が以前よりも明るみに出たことで、「労働環境の改善」と「デジタル広告の価値の見直し」が少しずつ図られてきたと思っています。
そして、デジタル広告に携わる人達のさらなる地位向上に繋がり、業界内の人たちの給与レンジも比例して向上していけば良くと考えています。
事実、一部のデジタルキャリアの方の給与はここ数年上昇傾向になっています。とはいえ、もちろん、受け身のオペレーション体質ではいけませんよ。
運用型広告人材の転職パターン
運用型広告に関する経験をお持ちの方々が転職される際、必ずしも全ての人に当てはまるわけではありませんが、キャリア形成のパターンはある程度確立されています。
まず、運用型広告のフロントラインに携わる方々の職種は、「アカウントプランナー(セールス)」と「コンサルタント(トレーダー)」の大きく2つに分けられます。
アカウントプランナー
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フロントに立ち、クライアントやパートナーとコミュニケーションを行ったり、複数人が関わる案件でチームのディレクションを行う
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コンサルタント
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クライアントに提案した施策を、実際に手を動かして進める
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「アカウントプランナー」と「コンサルタント」は転職先によって求められるスキルが異なってきますので、その点もあわせて解説します。
それではさっそくパターンを見てみましょう。大きく5つに分類できます。
パターン①事業会社への転職
エージェンシーサイドに在籍している方から最もリクエストを頂くパターンです。
転職後に期待される業務は、「アカウントプランナー」をベースとするキャリアであれば、実際に管理画面に向き合って手を動かすことよりも、担当エージェンシーや、社内とのディレクションがメインとなる傾向にあります。
一方、「コンサルタント」をベースとする場合は、手を動かす業務が多くなります。
自社内の売上やオーディエンスデータの分析に向き合うことを期待されたり、エージェンシーへのアウトソースをインハウス化している、またはしようとしているフェーズを任されやすいからです。
こうした市場ニーズの需要と供給のバランスを鑑みると、「コンサルタント」をべ―スとしたキャリアをお持ちの方の方が、事業会社へ転身しやすい傾向にあります。
ただ、受託側であるエージェンシーサイドなら幅広い業界のマーケティングに携われるのに対し、事業会社ではEC、人材、不動産等、業種が限られやすいので領域が狭く深くなるキャリアになりがちです。
業界や社風と合わずに、再度エージェンシーサイドを希望する方も一定数いらっしゃいますので、慎重にキャリアを判断することが求められます。
キャリアの棚卸しをした結果、事業会社以外の道を選択された方もいらっしゃいます。
パターン②総合広告代理店への転職
「アカウントプランナー」も「コンサルタント」もデジタル部門を推進する部署に配属されやすい傾向があります。
第二新卒採用として、総合職での採用枠を設けている大手代理店もありますが、マーケティング自体がデジタル化していく中、デジタル人材に期待されるのは、培ってきたナレッジです。
ですからここで気をつけたいのが、「総合広告代理店に行けばマス広告の仕事に携われる」と勘違いをしてしまうこと。
もちろん案件自体はナショナルクライアントの大型プロモーションが多いため、マス広告に関わるチャンスは多いでしょう。
しかし、リアルイベントの企画やマス広告の提案をするポジションにつくことは簡単ではありません。
なぜなら、総合広告代理店の体制の多くは、フロントのセールスラインと、業務推進(マス広告に強い部隊、デジタルに強い部隊、メディアに強い部隊など)がチームを組んでクライアントと向き合うケースが多く、それぞれのプロフェッショナルがすでに存在しているのです。
ですから期待されているのは、デジタル人材はデジタル領域となり、未経験領域であるマス広告を中心としたプロモーションへすぐに関わることは難しいのです。
なお、外資系の総合広告代理店は英語が必要なケースが多いですが、“デジタル人材は入社後に英語力を高められれば良”とする会社もあります。
パターン③メディア会社への転職
従来型のメディアに加え、最近では動画や分散型、キュレーション系のメディアを運営する企業も積極的に人材を採用しています。
「アカウントプランナー」の場合は、自社メディアのセールスやアライアンスに親和性があり、「コンサルタント」は、セールスに転身する場合もありますが、多く場合は自社メディアのマネタイズや、商品開発、稀ではありますがUI/UX周りのディレクションにも関わります。
セールスはパッション押しの枠売りスタイルだけではなく、最新テクノロジーを活用した提案スキルやタイアップの企画力、ディレクションスキルが求められる傾向にあります。
また、メディア向き合いのセールスにも需要があります。全体的に見ると、「アカウントプランナー」出身者が求められるケースが多くなりがちです。
パターン④マーケティングテクノロジーベンダーへの転職
「アカウントプランナー」は、自社プロダクトを代理店や直接クライアントに対しセールスします。
まだ浸透していないマーケティングテクノロジー領域であれば啓蒙活動から入る必要があり、「コンサルタント」キャリア出身者は、自社プロダクトが導入された後のカスタマイズや運用チューニングを担当するケースが多くなります。
導入して終わり、ではなく、そこからが始まりとなるため、継続受注を行うためにスキルを発揮することが期待されます。
「アカウントプランナー」「コンサルタント」のどちらにも共通しますが、日系ベンダーの場合は社内にエンジニアがいるため、新しい機能の導入や新サービスの開発等、商品設計に携わりやすいのが特徴です。
外資ベンダーの場合は日本支社となるので基本的に開発メンバーは国内におらず、ビジネスサイドのセールスとコンサルタントに配属されるケースが大半です。
ミッションは日本市場のシェア拡大となるため、クライアントは日系企業やエージェンシーとなり、英語スキルは研修等の社内コミュニケーション時に必須です。
グローバル企業でキャリアを積むからには英語ができないと様々な機会損失が発生してしまうでしょう。
パターン⑤外資系コンサルティング会社への転職
この領域に関しては広告・マーケティング領域と一気に距離が近くなってきており、転身する方や相談が増えています。
運用型広告に限らずデジタル人材は高いニーズがあり、転職した後は多くの場合、デジタル部門に配属されます。
コンサルティング会社の案件は一定期間ごとにプロジェクトが動くケースが多く、エージェンシー同様に様々な案件に携わることが可能です。
デジタルマーケティングの戦略立案からプロジェクトマネージメント、またマーケティングオートメーションの導入やPOSデータの分析等に携わることもあり、対象範囲は多岐にわたります。
また、コンサルティングフィーで仕事を行う点が広告系の会社との大きな文化の違いです。
今後、ますますマーケティング領域の融合が進んでいくと思われます。 「アカウントプランナー」「コンサルタント」ともに活躍のフィールドがあります。
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キャリアアップにはグローバルなどの選択肢も
「事業会社」「総合広告代理店」「メディア」「外資系コンサルティング会社」以外にも、あまり多くはありませんが選択肢があります。さっそく見てみましょう。
独立してフリーランスになる
個人事業主として活躍するケースがあります。
クライアントのリテラシーが高まる一方で、運用型広告の領域で広告代理業を行っている会社の多くが残念ながらマンパワーが下がり気味になっていると言われます。
すると自然にクライアントが求める成果に対する運用型広告も比例して低下しがちです。 しかし、マーケティングテクノロジーは進化を続け、ますます複雑化しています。
この構造により、クライアントが「若手中心の会社に発注するよりも、経験を積んだフリーの方に直接運用してもらったほうが良い」と考えるケースも出てきており、以前より与信も通りやすくなっているようです。
「フリーって、信用できるの?大丈夫なの?」という時代は過去のものです。 ちなみに、アカウントプランナーよりもコンサルタントで活躍していた人の方が、自己完遂できる傾向にあるため、フリーに転身し成功しているパターンが多いです。
当然ながら一番強いのは、「コンサルタント」として確かな腕がありながら、「アカウントプランナー」として営業感覚を持っている方です。
なお、フリーに転身して年収を上げるためには、大きく分けて自分の単価を上げるか、仕事の量を増やすしか方法はありません。執筆や講師のニーズも多くあると聞きます。
例えば、小規模な広告代理店が、大手広告代理店出身の同領域に知見のある方に顧問をお願いするケースです。
外資系企業でキャリアを積む
さらにここからもう少し広げてみましょう。これまでご紹介したパターンすべて(フリーランス以外)に当てはまることですが、日本の企業には外資系企業が参入しています。
特に国境のないデジタルマーケティングの領域では顕著です。つまり業種という選択肢に加え、外資系キャリアを選ぶこともできます。
ちなみに、当社が運営する転職サービス「プロの転職」にも、外資系企業へ転職したいという求職者の方も多くいらっしゃいますが、その転職理由として多いのが「年収を上げたい」というものです。
実際に20-30%ほどUPして転職するパターンも多く、人によっては倍になることもあります。
外資系企業への転職に英語は必須?
ちなみに、外資系の企業へ転職する際の「英語力の有無」ですが、実は、若ければ英語が話せなくても転職は可能です。
若手は現場仕事が多く、コミュニケーションをとる相手はほとんどが日本人ですから、日常業務で英語を使う機会が少ないのです。
ただし、グローバルブランドですから、基本的にアウトプットは英語になります。
たとえば本国から展開されるセールスシート等のアウトプットは、国内展開用に日本語にローカライゼーションをする必要がありますし、海外研修や他支社との社内コミュニケーションはもちろん英語です。
時差が少ないオーストラリラや韓国、シンガポール等とチャットや電話で情報交換することも多いですね。英語が話せると仕事の幅は確実に広がりますし、出世もしやすいでしょう。
最低限の条件として、英語に対してアレルギーが無いことが求められます。
また、30〜40代はレポートライン上、直接の上司が外国人ということも想定され、英語が必須となることが多いようです。
同業種の企業間で転職する
運用型広告に携わる方がキャリアチェンジをされる際、デジタル系代理店から別の同規模デジタル系代理店など、同業種の企業間を渡り歩くことはめったにありません。
仕事は変わらず場所が変わるだけなので、キャリアアップとは言えないからです。ただし、例外があります。
たとえば大手の企業に在籍していた人が同業種の3~5人のスタートアップ企業に転身し役員になる、また逆に、中小規模から大手エージェンシーへのキャリアアップニーズも一定数あります。
転職は若ければ若いほど選べる業種・職種の幅が広がります。年齢を重ねると、新しくできることが減り、幅も狭くなります。その代わり、経験してきたことの深さが計られます。
つまり、経験の7~8割を活かした転職をすることになります。
「未経験ですが、頑張ります」は、残念ながら第二新卒までで限界です。 ですから、年齢を重ねた方の場合は、意向とは異なり同業種間での転職で落ち着く結果になりがちです。
まとめ
さまざまな業種でデジタル人材の強化が図られていること、そして運用型広告に携わった経験を持つ人材が、引く手あまたの状態であることをご理解いただけたでしょうか。
同じ職種でも、業種によって業務の内容が異なるので、詳しく知りたいと思うことがありましたら、デジタルに精通したキャリアコンサルタントに相談してみるのもひとつの手です。
プロの転職でも、野崎をはじめデジタル業界出身の専門コンサルタントがサポートしますので、ぜひご相談にいらしてください。
\業界の中の中まで知っています!/
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