2025年4月、日本の公正取引委員会はGoogleに排除措置命令を出しました。スマートフォンの初期設定や収益分配に関わる条件が見直しを迫られ、検索広告とAIの主導権争いが実務レベルで転機を迎えています。さらに9月には米連邦地裁が検索分野での違法独占を認定しつつ、事業分割ではなく行動是正を選ぶ判断を示しました。本稿では、日本の命令と米国の判断を起点に、広告・IT志望の方が次の一手を描けるよう論点を整理します。
なぜ今、Googleが標的に？――公取委の排除措置命令の要諦
公取委は2025年4月15日、Android端末メーカーとの契約において、Google Playのプリインストールと引き換えに検索やChromeの初期配置を条件づける点や、収益分配契約に競合排除的な制約が含まれる点を問題視しました。契約条件の解除・見直しと5年間のモニタリングが求められています。Googleは「任意の契約であり競争を阻害しない」との見解を示しています。これにより、プリインストールや初期画面の占有といった“配置の力学”は、規制の対象として明確化されました。
米国でも反トラストが加速――「独占」認定と救済の方向性
米連邦地裁は2025年9月2日、検索分野での違法独占を認定し、排他的なデフォルト契約の禁止や一定のデータ共有などの行動是正を命じました。他方でChromeの売却までは求めず、生成AIの普及による市場変化を踏まえて、まずは行動面からの是正を重視する姿勢が示されました。
何が変わる？――広告・プラットフォームの地殻変動
- 検索広告の戦い方が実力勝負になります。 デフォルトの効力が薄まり、他社プロダクトの参入余地が広がるため、入札最適化や運用力の差が結果に直結します。
- AI×検索の統合が加速します。 生成AIの回答提示が普及し、ランキング・評価・計測の基準が再定義されます。検索APIやLLM連携、RAGなどの実装経験が価値を持ちます。
- UXの再設計が必要になります。 初期設定は“ユーザーの選択性”が前提となり、オンボーディングや切替導線設計、A/Bテストの巧拙が獲得効率を左右します。
- RegTechとガバナンスが攻めの装備になります。 規制対応や監視体制の設計はコストではなく競争力として評価されます。
- 代理店／コンサルはミックス設計が武器になります。 Google依存を緩め、ソーシャル、コマース、DSP、CTVなどを横断する配分設計が競争軸になります。
ポスト独禁の競争設計――“データ共有”とディストリビューションの再設計
米国の救済は、事業分割ではなく排他的ディールの封じ込めと限定的なデータ共有に軸足を置きました。共有の範囲が広範ではないため、一足飛びに勢力図が入れ替わるわけではありませんが、APIやパートナーシップの設計が競争の質を左右します。日本でも“初期配置の固定化”に歯止めがかかり、UI・契約・収益分配のルールづくりが国際的に歩調を合わせる形で進みます。
マーケットが示すシグナル――「デフォルト覇権」から「選ばれるUX」競争へ
判決発表後、分割回避への安心感からテック株に買いが入りましたが、同時に選ばれるUXや非独占の獲得競争が中長期の評価軸になりました。端末メーカーやブラウザ事業者の交渉力が増すにつれ、プロモーション費や収益分配の設計は再調整が進みます。結果として、広告在庫の配分、生成AIの埋め込み方、検索結果の提示様式が新たな差別化ポイントになります。
まとめ――“配置の時代”から“選択の時代”へ
日本と米国の一連の動きは、デフォルト支配から“選択が効く市場”への転換点を示しました。生成AIの普及と規制の進展が重なり、広告と検索は「配り方・見せ方・計り方」を総合的に再設計する段階に入っています。業界を目指す方は、この新しい土俵を前提に、自身の強みを磨いていくことが重要になります。
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