「一度つくれば限界費用はほぼゼロ」。この“神話”がソフトウエアの高収益を支えてきました。ところが生成AIの急拡大で、機能のコモディティ化と価格モデルの見直し圧力が強まり、SaaSの評価軸そのものが揺らいでいます。市場で何が起き、私たちはどんなスキルと職場を選ぶべきなのでしょうか。最新の動向と企業事例から、AI時代のキャリアの勝ち筋を読み解きます。
変わる「定額×高粗利」の神話
生成AIは、従来は有償の機能を“安く・速く・広く”提供可能にし、ソフトウエアの差別化を難しくしています。Reuters Breakingviewsは、AIの浸透でSaaSの売上成長が鈍化し、ユーザー課金から利用量課金への移行などビジネスモデル再設計が迫られると指摘しました。評価倍率の見直し余地も残るとみています。
市場の揺れが示すもの
2025年8月、米ハイテク株はAI相場の一服感から下落し、ボラティリティが上昇しました。生成AI関連の主力銘柄にも調整が及び、投資家の目線が“期待”から“収益化の確度”へ移っていることがうかがえます。
勝者の条件を映す鏡:オラクルの転身
象徴的なのがオラクルです。長年のソフト収益に依存せず、AIインフラに軸足を移しています。OpenAIと組み、4.5GWの追加データセンター能力を確保する計画を発表。巨額のキャパシティ投資で、AI需要の取り込みを図ります。
さらに、ソフトバンクとともに5,000億ドル規模「Stargate」構想を推進。AI専用データセンター群の整備で計算需要に対応しようとしています。
アナリスト評価もそれを映します。Piper Sandlerは7月にオラクルを「Overweight」に格上げし目標株価を270ドルへ引き上げ、みずほも8月に300ドルへ増額しました。いずれもAIインフラ需要を背景にした収益機会を評価しています。
現場に起きている雇用の地殻変動
生成AIの導入で、テスト・文書化・単純修正といった工程の効率化が一気に進みました。一方で、企業はデータ/MLエンジニアやAIガバナンス人材の採用を拡大しています。
実務では、AIを理由の一つに役割再編や人員調整を行う事例も報じられています(背景には景気・構造要因も並存)
これから“伸びる”職種・スキル
- プロダクトマネージャー(PM):顧客課題を抽出し、AIを機能ではなく成果として設計できる方。
- プリセールス/ソリューションコンサル:AIの投資対効果を定量で示し、導入設計→現場運用まで伴走できる方。
- ドメイン特化エンジニア:金融・医療・製造などで、業務知とAIを架橋できる方。
- 横断スキル:クラウド(AWS/Azure/GCP)、データ基盤・データ品質管理、プロンプト設計、AI安全性・法務の素養。
転職で見抜くべき「3つの指標」
- AI投資の実効性
学習用データの量質、推論コスト低減の計画、自社プロダクトへの落とし込みが見えるか。
(例:AI向けDC増強や電源確保、利用量課金の設計など) - 収益モデルの再設計
“ユーザー課金のみ”から、利用量・成果連動をどう織り込むか。価格改定の実績と顧客維持率の開示が鍵です。 - 外部アライアンスの質
ハイパースケーラー/半導体/通信・電力との連携の深さ。Stargate的な共同投資は象徴的です。
まとめ
“ソフトウエアは永遠の成長産業”という前提は、AIの登場で更新を迫られています。市場が銘柄を選別するのと同じく、働き手も企業のAI実装力と自分のAI適応力でキャリアを設計する時代です。奪われる仕事もありますが、設計し、使いこなし、成果に落とす人材の需要はむしろ高まります。
いま転職を検討されている方へ。まずは専門コンサルタントと、AI時代の職務棚卸しと狙うポジション定義を行うのが近道です。「プロの転職」に登録し、具体的な求人と照らして戦略を言語化する一歩を踏み出しましょう。
