株式会社ベストインクラスプロデューサーズ
【Part1】
「デジタルマーケティング」の支援ではなく

「「デジタル時代のマーケティング」の支援を。

こんにちは、シンアド転職エージェント キャリアコンサルタントの野崎大輔です。

デジタル領域の成長は著しく、人材採用においても、新卒・キャリアニーズともに右肩上がりの状態が続いています。しかし、感じているのは、「果たしてこのままでいいのだろうか?」という焦りです。企業合併や買収等が続く中、3年後の業界未来をイメージしながら逆算でスキルセットを身に付けているデジタルマーケターはどの程度いるのでしょうか。そして、海外スタートアップの猛者たちと渡り合える日本人が、どれくらいいるのでしょうか。

キャリア形成において、転職という手段が当たり前のデジタル業界だからこそ、このまま現職に残るべきか・転職すべきか、という悩みは常についてまわります。周囲の仲間が転職するたびに、このまま残っていたら出遅れるのではないかと不安になるのも当然です。だからといって、漠然としたイメージのままで転職に踏み出すのは推奨しません。

なぜこういう事象になっているかと言えば、ひとえに業界の歴史が浅い上に流れが早く、「キャリアの指針」となるものが確立できないからだと私は考えています。転職を目的とするだけでなく、どうなりたいのか、そのためには何をすべきなのか、目の前の仕事にどう向き合うべきなのか。自社でできることで解決するならば、転職というリスクは取らない方がベターです。そんな、自身のキャリアを意識的に考えていくためのヒントを、業界歴の長い諸先輩方から見出して頂ければ、というのが当企画の狙いです。

この記事のゲストは、「マーケティングプロデュース業」という独自のビジネスを立ち上げた、株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(以下BICP)の代表取締役社長・菅 恭一(すが・きょういち)氏です。事業への想い、仕事への取り組み方、そして業界の未来について語っていただきました。

もうデジタルだけでは足りない。大事なのは、ニュートラルな視点で生活者と向き合うこと

野崎 今日は、改めて菅さんにお話をうかがうことができて嬉しいです。さっそくですが、御社がどういう会社なのか、事業内容からお伺いできますか?

菅氏 当社が行っていることを一言で表現するなら、「マーケティングプロデュース業」です。あまり聞いたことがない言葉だと思いますが、名付けたのは私ですから、当然かもしれません(笑)。

野崎 マーケティングプロデュース。確かに御社以外でこのワードを使用されている会社に出会ったことがありません。せっかくなので、創業の経緯から教えていただけますか?

菅氏 はい、少し遡って話をさせていただくと、元々私は1998年に総合広告代理店である朝日広告社に入社し、マスメディアを中心とした営業職からキャリアをスタートしています。

一方、時代で言うと、1996年にヤフージャパンが設立され、アサヒコムという日本初のニュースメディアが誕生、その少し後には携帯のiモードやEZwebといったものが世の中に普及し始めた頃です。マスメディアの全盛でありながら、携帯コンテンツが誕生したり、紙のメディアがデジタル上でも展開されるようになったりと、連動してクライアントの事業モデルが変わっていくタイミングに立ち会うことができたわけですね。

実際に2000年前後で携帯キャリアの公式コンテンツの事業開発や、大手人材企業の仕事ポータルサイト、コールセンターのwebシステム化などのプロジェクトマネジメントを担当する機会があり、それが私のキャリアの大きな転換期になりました。

野崎 まさに時代がデジタルに変わっていくタイミングですね。

菅氏 そうですね。その後2000年代前半からネットメディアが成長し始め、マスメディアの売上が低下し始めました。このタイミングでネット専業代理店も急速に成長しましたね。一方で、常々私が感じていた疑問は、マーケティング支援プレイヤーの分断です。「マスメディアもデジタルメディアも含めた、ニュートラルに生活者に向き合ったマーケティング活動を支援できる業態がない」ということでした。

野崎 菅さんは、途中からデジタル専門の部署に異動されたとうかがっているのですが、デジタルの仕事をしながらも、もどかしさを感じていた理由を教えてください。

菅氏 私がデジタルの部署で働き始めたのは2001年なので、割と早い段階から私はデジタル専門の部署で働いてきました。その経験の中で、バナー広告、リスティング広告、アドテクノロジーなど、デジタルを活用すればある程度は効率良くクライアントの事業に貢献できることは分かったんです。

ただ、マーケティングの目的を市場の創造と考えたときに、もっと世の中ごとをつくるとか、生活者を理解して態度変容のプロセスをデザインするといったことを考えようとした場合、獲得型に傾倒したデジタル広告業界のリテラシーだけでは不足だと感じていました。

野崎 それはとても興味深い話ですね、もう少し詳しく聞かせてください。

菅氏 つまり、前デジタル時代から広告会社がやっていたような、世の中や生活者のインサイトを捉え、どのようなコミュニケーション活動をおこなっていいくか、という設計思想と、デジタル化していく生活環境、マーケティングテクノロジーの進化への適応を視点として併せ持たなければ、これからの企業のマーケティング支援は難しいのではないか……ということに気付くことができたわけです。

野崎 それがBICP社を設立するきっかけになったと。

菅氏 はい。実際、前職時代の後期には、デジタルの専門性を持ちながら、ニュートラルにマーケティング活動を支援するプロデュース型のチームを立ち上げ、クライアントのニーズもキャッチできていました。一方で、総合広告代理店はマスメディアを売らなければ組織規模を維持できない構造ですし、組織にいる以上、それを維持するためのメディアセールスのKPIを大切にしなければならないのは当然の責任です。

ここに存在するクライアントニーズとのギャップを埋めるためには、別のKPIを持つ業態としてニュートラルなプロデュース会社をつくる必要があると考えたのが、2010年頃です。その後、様々なご縁もあり支援を受けながらBICPを創業したのが2015年の4月という流れです。

代理店でもなくコンサルでもない。今、マーケティングプロデュースが求められる理由

野崎 御社は広告代理店でもなく、コンサルティング会社でもない。現在のデジタル業界にはない業態ですよね。

菅氏 そうですね、当社は広告代理業務を一切行っていませんし、戦略を出したら消えてしまうコンサル業とも違います。いわゆるマーケティング戦略、コミュニケーション戦略を顧客中心で考え、設計し、それを実行するチームをつくって、さらにプロジェクトマネジメントまで行うのが当社の仕事です。

野崎 それを「マーケティングプロデュース業」と言っているわけですね。

菅氏 はい。ですから、広告とかオウンドメディア、ソーシャルメディアみたいに何か打ち手が決まっているわけではありません。マーケティング活動にとってニュートラルな戦略をつくり、最後は打ち手までプロデュースするというわけですね。

野崎 ということは、パートナーサイドというよりはクライアント側に立ち、他のパートナーと向き合う仕事ということになるわけですね。日本だとまだまだ少ない立ち位置のような気がしますが、海外だとこういうポジションの仕事は多いのでしょうか?

菅氏 確かに国内には競合はいませんが、同じような仕事は多少あると思います。例えば外資のブランドエージェンシーなどは、やっていることは近いかもしれません。ただし、1つポイントなのは、そのブランドエージェンシーがデジタルシフトできているかどうかということです。デジタルのスキルやリテラシー、ワークフローをちゃんと持っているのか、さらに打ち手がニュートラルで、かつトラディショナルもデジタルもしっかりマネジメントできるかどうかというところは重要だと考えています。

最近、海外では大手エージェンシーグループが、デジタル系のパートナー企業を買収したり、IT系コンサルティング企業がエージェンシーを買収するような動きが加速していますが、それらはそういった流れの一つなのかなと捉えています。

野崎 立ち上げから約2年が経ちましたが、マーケティングプロデュース業の、市場からのニーズはいかがですか?

菅氏 まだまだ認知はされていないんですよね。ですが、私たちのやっていることを説明すると、すごく反応がいいんです。「求められているな」と感じる場面は多いですね。

野崎 つまり、戦略から実行まですべてを行う事業が御社の特徴ですが、改めて御社の「強み」はどんなことだとお考えですか?

菅氏 1つは「セールスプロダクト」を持っていないことでしょうか。たとえばメディアを売らないといけないとか、オウンドメディアを作らないといけない、システム開発をしないといけない、といった制約が何もないので、クライアントの横に立ちやすいんです。純粋に、悩みのケースに合わせて必要なプロジェクトのかたちをプロデュースできるというわけです。また、23社から構成される「ベスト・イン・クラス パートナーズ」というデジタル時代のエキスパート集団をネットワークしていますので、よりホリスティックな実行支援が行えます。

もう1つは、「スキルセット」の部分ですね。経験として、いわゆるトラディショナルとデジタルの両方を跨いでいるプロデューサー、プランナーのみで構成された会社です。実際のこのスキルセットがクライアントのフロントに立ちます。ここが、広告代理店とは決定的に違う部分だと思っています。

野崎 どのようなシーンでその「強み」が発揮されますか?

菅氏 例えば総合代理店などの場合、フロントのプロデューサーであっても「マスのことはわかるがデジタルはわからない」といったケースは多いんです。逆にデジタルのチームはデジタルの話はできるけれどマーケティングの話はできない、といったことが往々に起こり得るわけです。当社の強みは、どこの分野に対してもある程度の共通言語を持って、あらゆるパートナー、メンバー、そしてクライアントと話ができる点だと考えています。

野崎 今の話をうかがって感じたのは、そもそもマスやデジタルと分かれているのがおかしいのではないかということです。菅さんはよく、「デジタル時代のコミュニケーションプランニング」という言い方をされますが、マスだろうとデジタルだろうと関係なく、結果的に全て行き来をするかもしれない時代なわけで、分けることでどちらかしかわからないという状況ができちゃっているとしたら、それこそ時代に合っていないですよね。

菅氏 私もその通りだと思います。その課題は、当社を立ち上げた背景として非常に大きなものでしたね。

「デジタルマーケティング」の支援ではなく、「デジタル時代のマーケティング」の支援を

野崎 もう少し具体的に仕事の中身をおうかがいしたいのですが、例えばクライアントからどういう相談をされることが多いのでしょうか?

菅氏 例えば、「ホームページをリニューアルしたい」「運用型広告がうまくいっていないので間に入って見てほしい」みたいな相談がきっかけになることも多いですね。ただ、それはあくまで顕在化された課題。その裏をよく見てみると、実は、マーケティングにおいて、そもそも抱えている問題や、活動の目的や優先度が整理されていないケースが多いんです。

「そもそもこのリスティング広告は、正しいマーケティングの目的から設計されているものなのか?」とか、「そもそもホームページをブランドに合わせてきれいに作ることが目的なのか?」とか、そういった「自社にとっての理想的なマーケティングモデルが何か」が明確でない状態で、とりあえず走ってしまっているというか。

野崎 それはなぜなのでしょうか?

菅氏 先ほどもお話ししましたが、いわゆる「分断化」が原因だと思うんです。「企業が抱える問題をマーケティングの課題に分解していく戦略の世界」と「きめ細かく運用して積み上げていくデジタルの世界」の間の分断ですね。それを埋めるのが、ニュートラルなマーケティング戦略をもってコミュニケーションプランニング領域と、テクノロジー・データ領域の双方にアプローチ可能な、当社のプロデューサーやディレクター陣です。

野崎 彼らは具体的にどのようなことを行っているのですか?

菅氏 私たちは「ビジネスのKPI」と呼んでいるのですが、クライアントの大きい事業目標のためのKPIと、さらにそれを実現していくための打ち手のKPIをきちんと分解し、構造化するプロセスを必ず踏んでいます。例えば、市場認知の獲得、見込み顧客の拡大、新規顧客の獲得、リピーター・ファンの育成のような顧客数や売上に直接影響するKPIと、見込み顧客を連れてくるための具体的な打ち手の効果を判断するKPIは別に考える必要があるわけです。

そうした一つひとつをきちんと構造化し直すことで、「この打ち手はマーケティングモデルのどの部分に貢献しているのか」が明確になる。いわゆる全体の地図の中の役割を明確にして、一つ一つが事業に貢献できるものにするためにプロデュースしていくという感じでしょうか。

野崎 そういう課題感に気付いているクライアントさんって、実際どのくらいの割合いらっしゃるのですか?

菅氏 潜在的に抱えられている企業は多いと思います。ただし、現場では顕在化していないことも多いです。どちらかというと我々からお話をすると、その通り、ただしプロセスは描けていないというケースが多いですね。我々に期待されているこという意味では、「デジタルに強い会社」というふうに見られることが多いです。それは間違っていません。しかし、デジタルの打ち手はあくまで一つの手段。大事なのは、ちゃんと目的を定めることであって、そのためにデジタルもそうでないものも全部を含めて考えるということです。

野崎 つまり、「デジタルマーケティングの支援をする」のではなくて、「デジタル時代のマーケティングの支援をする」ということですね。

菅氏 おっしゃる通りです。急速にデジタル化が進み、先ほどの分断化に加え、マーケティングそのものが大きくトランスフォーメーションしている。そんな中で、お客様側の中でも、これまで分離していたリテラシーを統合していかなければならないというニーズが高まっていることも背景にあると思っています。だからこそ、マーケティングプロデュースという存在が求められているのかなと感じています。

野崎 確かにそのニーズは必然ですよね。同時に思ったのは、本来であれば、事業会社のマーケター自身がそれを理解していることが理想ではないかということなのですが、どうでしょう?

菅氏 その通りです。理想を言えば事業会社が領域を統合してマネジメント仕切れることがベストだと思っています。ですので、私たちはそれがきちんとできている事業会社さんであれば、無理にお仕事をいただいたりしません。そして、こういっては何ですが、全てのお客様が自社で実現できていれば、当社の仕事は本来はいらないものなのかもしれないと本気で思っています(笑)。

part2 戦略領域まで思考を巡らせることが市場価値を高める秘訣に続く)